通訳・翻訳は試してこそ適性が分かる

Introduction (the full text in Japanese continues below (日本語の本文が続きます)):

この投稿は、バベル翻訳専門職大学院によるウェブマガジン『The Professional Translator』に寄稿させていただいたものです。

今回は「翻訳と通訳の向き不向きや適性」というテーマをいただきました。通訳は本番に強い人が向いており、翻訳はもう少し時間をかけて作業をしたい人が向いている、という点はよく知られています。でも、さらに細かく見ていくと、通訳も翻訳も、分野(外交、法律、文化など)によって仕事の仕方が大きく異なるため、適性もそれぞれなのではないかと思っています。通訳・翻訳に関心のある方は、いろいろと経験してみることをお勧めします。

“Exploring Various Fields in Interpretation and Translation, and Knowing What Makes You Happiest”

Below is an article I wrote for The Professional Translator, the web magazine of a translation graduate school called Babel. The assigned theme was about aptitudes needed for interpretation and translation.

There are well-known, general characteristics: those who like in-person exchanges and travel might be happier as interpreters, while those who like to spend time choosing the perfect words are likely better as translators. But there are also vast differences depending on the field. These include conference interpretation, court interpretation, interpreting on stage at an event, subtitling, and technical translations. I didn’t realize how different these were until I had the opportunity to explore them. In addition, with my love for reading and writing, I initially thought I would be happier as a translator–but ended up being more of an interpreter, mostly because I’ve enjoyed traveling and meeting experts from various fields. To anyone who is considering a profession in interpretation or translation, I recommend taking on a variety of jobs–only then will you learn what truly makes you happy.

通訳と翻訳という二つの職業への適性は、ある程度、人によって異なると思います。しかし、苦手だと思っていたことが案外楽しいこともあるため、自分がどちらに向いているかという判断を行うには、いろいろな経験を積むことが重要だと思います。また、通訳も翻訳もかなり幅が広く、法律や文化など、分野によって求められるスキルが大きく異なるという点も留意しなければなりません。

今の私が通訳者であることを子供の頃の私が知れば、きっと驚くと思います。家で本を読んでばかりだった私は、むしろ、世界中の子供たちに素敵な夢を届ける童話の翻訳者という仕事に憧れていました。通訳に関しては、国連などで大勢があらゆる言語で早口に話すかっこいいイメージがあり、自分にはあまり縁がないと思っていました。でも、ワシントンDCに来てから通訳に触れ、考えが変わりました。世界をより良い場所にしようと志す人たちが各地から集まるこの町で通訳を行うと、微力ながら国際協力に貢献できることに、非常にやりがいを感じます。最初は少し苦手だった人との交流も、今では逆に楽しめるようになりました。職業への適性というのは、やってみなければ分からないのだと実感しています。

通訳者には、人と接することが好き、本番に強い、などといった全般的な特徴がありますが、分野によっても、求められるスキルが異なると思います。たとえば、招聘プログラムの通訳として、日本からの訪問者数名と数週間全米各地をまわる仕事では、自分もよく知らない場所で初めて会う方々を案内し、アポの時間などの詳細にも気を配らなければなりません。幸い、これまで私は温かい参加者にばかり恵まれており、GPSのおかげで迷ったりする問題も起きていません。サクラメントの発電所、移民を支援するマイアミのNPO、アーカンソーの林野庁など、自分では行く機会のない所を一緒に訪ねながら、あらゆる事柄について学び、楽しい経験をしています。

会議通訳としては、ブースで同時通訳を行うことが多いです。一日会議室にこもっているたため、招聘プログラムに比べると、心身ともに人と距離があり、少し事務的です。しかし、緊張した雰囲気の場合が多いですし、聞き取れない言葉があっても話を止められない分、通訳としてのスリルは倍増します。失敗を気にすると、次の話を聞き逃してしまい、さらに間違いが増えます。そういった意味で、ある程度、分からないことや失敗に固執しない楽観主義と、ハプニングがあっても聞き手に支障がないように訳し続ける機転が求められます。

イベントの逐次通訳もまた特殊です。美術や芸術に関する講演では、アーティストの隣で舞台に立つこともあります。普段は黒子の通訳者がここでは注目され、通訳もパフォーマンスの一環となります。話者はもちろんのこと、観客とも目を合わせて、話者が意図したタイミングで観客が感動し、驚き、笑ってくれるよう、分かりやすい表現や言葉を発するテンポに気を配ります。人に楽しんでもらいたいという意思が重要な仕事だと思います。

私自身はまだ経験していませんが、法廷通訳などでは、何よりも正確性が重要になると理解しています。大変なプレッシャーのもとで証人の逐次通訳を行い、聞き取れない言葉や意味が不明瞭な言葉に関しては聞き返すことができるものの、まず判事の許可を取らなければならない、と聞いています。何事にも動じない、慎重な方が向いているかと思います。

翻訳もまた、分野によって適性や好みが分かれると思います。軍事や医療など、専門的な内容の翻訳では、決まった用語や表現に徹しますし、日米関係や社会に貢献しているというやりがいを感じます。字幕翻訳では、一秒間に読める字数が限られていることから、要点を押さえつつ簡潔に内容を伝えるクリエイティビティが求められます。最近、音楽家のアルバムの曲名を訳す機会に恵まれましたが、ぎゅっと意味が凝縮された曲名は詩のようで、ご本人に話を聞く以外にも、曲を聴いて理解するという、普段とは違う感性を使うことができました。どの分野の翻訳にも一貫して言えることは、通訳同様、話し手や書き手の立場やメッセージをしっかり理解して、淡々と事実を伝えるなり、情熱的に訴えるなり、原文と同じ温度で書くことだと思います。

今、コロナの影響で、北米での通訳の仕事はほぼすべてバーチャルになっています。対面での人との出会いや出張という利点が今の通訳にはありませんが、その分、自宅のパソコンで作業ができるという意味では翻訳に近い状況になり、家を離れることができない人にも機会が広がりました。各分野への適性は、やってみてこそ分かるものですし、通訳と翻訳の距離が縮まっている今だからこそ、双方のいろいろな仕事を試してみるよい機会かと思います。

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